人事制度

人事制度ハンドブック by Hiroyuki Kaneda

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スタートアップ人事コンサルの人の知見集

全体的な評価体制

最終決定に現場の情報が欠落するため、一次・二次評価ではなく、メイン・サブ評価を推奨

人事制度のKPI: 納得感

  • 評価後にアンケートを取るのがおすすめ
  • 納得している・していない・しているとは言い切れない + その理由
  • 匿名化や、アンケートの結果の上長へのフィードバックも重要

ロール: メイン評価者

  • いわゆるマネージャーの責務全般
  • 評価(案)の説明責任を持つ
  • 評価の通達責任を持つ
  • 評価・昇格の提案・推薦が責務

ロール: サブ評価者

メイン評価者の視点を補うのが目的。

ロール: 昇格の意思決定者

昇格(降格)の最終的な意思決定を行う。 CEO・役員・部門の責任者などが担う。

等級制度

7等級が基本

  • 1: 新人
  • 2: 指示があれば動ける
  • 3: 自立している
  • 4: 係長ぐらい
  • 5: 課長ぐらい
  • 6: 部長ぐらい
  • 7: 経営層ぐらい

基本

  • 役職と等級は連動させない
  • 職種別等級
    • 5-6 等級の人材が作るべき
    • 会社にとって重要でかつ人数が多い場合に効果的

等級の軸

等級に求められる能力は、縦軸が等級、横軸がカテゴリで整理できるはず。 この横軸を等級の軸と表現する。

等級の判定基準

再現性があると判断できることが、評価の基準となる。 10回やって8回はできる、ぐらい。

入学要件として運用

等級の基準をすべて満たすことで、その等級に昇格させる。

飛び級はない

スタートアップで飛び級させたくなる場合、等級の連続性が確保できていない兆候。

等級は公開すべき

公開した方が良い。 メリットは透明化による評価者の説明責任と納得感。 デメリットは納得感がない(≒ 正しく人事制度を回せていない)場合の不公平感の悪化。
昇格制度

基本

評価期間毎に実行される。(例: 半年) このプロセスを通じてのみ、昇格が行われる。 ただし、第3等級までは、候補者でなくても昇進できる運用が妥当な場合はありうる。 (リンク: 等級制度 FAQ)

候補者選定会議

  • 期初に開催
  • メイン評価者が対象者を提案する
  • 各対象者ごとに、昇格条件を言語化する
  • 候補者になったことを、メイン評価者は通達する。候補者以外には通達しない
  • 補足: 候補者が昇格しないこともある

中間評価会議

  • 評価期間の中間で実施
  • 昇格者以外のすべての被評価者も対象の評価会議
  • 現時点の見込みをメイン評価者は説明する
    • 見込みを候補者に伝えても良い

昇格(等級判定)会議

  • 期末に実施
  • メイン評価者が集まる会議
  • メイン評価者が、昇格の可否をその理由と共に説明
  • メインでそのプロセスを共有
  • 給与は給与会議にて別途決定

等級判定会議のポイント

  1. 意思決定プロセスの決定
    • 誰が責任者か
    • 合議の場合、その基準は何か
  2. 情報収集
    • 他の会議参加者(メイン評価者)から、候補者への「褒め」と「今後の期待」を集める
  3. 品質管理
    • 等級判定シートを用意し、それをベースに議論

昇格者発表

全社員がいるチャネルで発表する。

昇格レポート

  • 前者に公開する、昇格に至ったレポート
  • 納得感を醸成し、基準の理解を促し、昇格者自身のフィードバックにつながる。
  • 内容例
    • 成果やできるようになったこと by 昇格者
    • 評価内容と昇格後の期待 by メイン評価者(+ サブ評価者)
    • 今後チャレンジしたいこと by 昇格者

降格

  • やらないに越したことはない
  • 昇格制度を逆に回す形
  • 前期ぐらいから、期待値調整のフィードバックを行いすりあわせる
  • 降格評価期間中は、週次でフィードバック

評価制度

基本

会社には Vision ・ Mission ・ Value がある。 Mission 達成への個人の貢献の評価が成果評価であり、 Value の実現度合いの評価が行動評価となる。 この2軸で評価を行う。被評価者の納得感と、評価の正しさを、効率的に両立することが目的。

成果評価

OKR 的に成果は測定される。

行動評価

  • 普段の業務でどれだけ Value に沿った行動が取れているか。
  • 全社共通で4段階評価を推奨
    1. 体現できていない
    2. 体現しようとしている
    3. 自然に体現できている(再現性がある)
    4. 周囲の模範になっている(見習ってほしい存在である)

総合評価

基準を決めて按分する。割合は決めの問題。等級によって按分を変えてもよい。 (例: 上位ほど成果重視)最終的な評価ランク(記号)は事例集を参照。 「SABCD」で B を期待水準とする感じが良さそう。

評価者選定

  • メイン評価者は被評価者よりも上位等級であるべき
    • 同じ等級までは許容
    • サブはそれ以下でも許容
  • サブはマストではない
  • 原則、一度は評価された側がメイン評価者になる
  • 期中にメイン評価者の変更はアリ。
  • メイン評価者は、専門性のより上位の存在が望ましい。
    • 難しい場合は人間性による納得感で代替
  • 相互メイン評価者はなるべく避けるべき

人事評価フロー

  1. 自己評価
  2. メイン・サブが各々評価
    • まずは自己評価を見ずに評価
    • その後、黒塗り情報を開示し、自己評価と見比べる。差異がある場合は、その原因の究明。
  3. メインとサブで擦り合わせ
  4. 評価ヒアリング面談
    • 負担が大きいため、オプショナル
    • 自己評価について、すりあわせを行う
    • 決定した評価を伝える場ではない
  5. 評価会議
    • メイン評価者が集まり、全社員の評価を確認する
  6. 評価フィードバック面談
    • 評価を公式に伝える場。
    • 被評価者の納得感が十分である場合には、スキップしても良い。

中間評価

中途入社者への評価

評価に必要となる期間を予め定め、入社タイミングでその期間が満了するならば評価対象、そうでないならば対象外とする。 その期間として、3ヶ月が割と区切りがよい。

スタートアップは絶対評価が良い

絶対評価の方が基本的に良い。 人件費抑制の手段として相対評価が存在する。 急成長を目指すスタートアップは、相対評価をする意味がない。

評価会議

  • 評価者が2名以上になった際に実施
  • 評価制度に齟齬がなく一貫していることを担保するために実施
  • 最終的な評価決定の際に実施
  • 諸々の情報を参照しながら、問題ないことを確認する
  • 進め方例:
    1. 全体傾向
      • 全社的な評価の分布と、部署ごとの分布
    2. 評価サプライズ
      • 二段階以上の自己評価とのズレがある場合、その原因と対策
    3. 個人結果の確認
      • 重たくなるので、各社調整
  • 人数が増えてきたら、まずは部署ごとに評価会議を行ってから全社会議する等する。

評価の納得感の本質

評価者に対する信頼関係が本質で、それを前提にどう制度化するかを考えているだけにすぎない。 信頼には、能力によるものと人間性によるものがある。

低い自己評価者への対応法

ストイックパターンと意図的(否定回避)パターンが、自己評価が低くなりがち。 それぞれ、適切な他人の評価ができなくなる(ストイック)、成長機会の損失(意図的)となるため、改善するべき。「自分が納得できるレベルに達するには、あと何をすればいい?」と聞くのが汎用的に利用可能なテクニック。
目標設定

SMART よりも大事なこと

等級に従った目標になっているか

必達目標が適さない職種もある

セールスは妥当だが、エンジニアやデザイナーはいまいち。

目標一覧シート

OKR の目標部分だけを全社公開しているイメージ。 人数が少ない間は適する。

報酬制度

報酬レンジ

  • 等級に対して定義される
  • 重複があることは可能
    • 例: 期待値で言えば4等級だが、3かもしれない場合に、給与競争で負けないため
  • 上位等級の上限は将来決める
  • 100万単位など、きりよい所にする
  • 職種別給与テーブルは、市場を考慮しないとサステイナブルではない。

昇給

  • 年2回を推奨
  • 昇給テーブルを設定
    • 人事評価の結果どれだけ昇給するか
    • 最高評価、期待水準、水準以下、最低の場合にどれだけ上下するかを定める。
  • 例:
    • S: 120万 (or, 10%)
    • A: 適当
    • B: 適当
    • C: 昇給なし
    • D: 減給

賞与

賞与は、人事評価ないし業績によってどーんと貰えてこそ。 スタートアップの場合は、一括なしにしてしまって、その分ベースを上げる形の方が納得感や競争力の観点で良かったりする。 (SO もあるので、そもそも賞与いるのか? という話もある)考察: 賞与は、元々想定されるベースモデル労働を大きく越えた場合に、その報酬という形で表されるのが妥当そう。 ベースモデル労働に稼動を減らしてなお見合わなければ、特別昇給を含めたベース昇給を。 一過的にめちゃくちゃ働いたとかであれば、賞与による報酬が妥当そう。考察2:
  1. 成果などの上ぶれに対する報酬(ボーナス)
  2. 業績の下振れに対する変動幅(固定賞与)

セールスインセンティブ

スタートアップの場合は、 SO の方が妥当な場合が多い。 市場感がある程度固定されている領域において妥当。

調整給

以下のような例で調整給を使う場合がある。
  • 降格に伴う調整
    • 6ヶ月などのバッファとして儲ける
  • 報酬レンジの調整などによる、上限キャップの緩和
    • 変わらない報酬にすべく3年間調整給のケースが事例にある。
  • 中途社員の等級の上限による希望の埋め合せ、として利用するケースがあったりするが、リスクが大きい。

給与制度の公開

透明性を高めるためには、給与レンジと昇給テーブルは公開した方が良い。

マネージャーへのメンバー給与の公開

以下のメリットを得られる場合には、公開した方が良い。
  1. 目標設定を公正にするため
    • 対象: 被評価者
    • 要件: 等級における給与レンジの幅が広く妥当な目標が変わる場合
  2. 給与決定の負荷分散
    • 要件: そのマネージャーが信頼できること
  3. 納得感
    • 市場感と、社内のバランスを見て妥当な形にする。
メモ: 2, 3の場合は、おそらく部長や課長など、担当する部や課の情報を知っている、という形になっていそう。

必達目標が適さない職種もある

セールスは妥当だが、エンジニアやデザイナーはいまいち。

特別昇給

S 評価や昇格時に、昇給テーブルによる上昇や、昇格後給与レンジ下限への昇給だけでは足りない場合に、 社内や市場の給与感から、特別に給与をレンジ内で上げた状態まで持っていく昇給。 ケースバイケースで対応。

その他

社長は何を権限移譲しているか

縦と横の権限移譲をしている。 横は機能であるため、分かりやすい。 縦は、以下のような形をしているのではないか、という著者の仮説
  1. ミッション(CxO)
  2. 戦略(SVP / 本部長など)
  3. 組織(VP / 部長)
  4. 人(Manager / 課長)
  5. 仕事(リーダー / 係長)

カルチャーとバリュー

  • カルチャーとは文化であり、トップがいないところでの組織のメンバーの行動全体を表す。
  • バリューは価値観と行動指針で構成される
  • バリューは、 Vision や Mission を達成するため、という論理的な構成を取る、カルチャーの一部

その他

Ulrich Model

概要

HR の役割を定義した教科書的モデル。

HR の役割領域

プロセス
戦略Change AgentStrategic Partner
OpsAdministrative ExpertEmployee Champion

各役割の説明

  • Change Agent
    • 企業文化やプロセスの変革の実行者
  • Strategic Partner
    • 戦略を実行するための人員(兵站)を実現するパートナー
  • Administrative Expert
    • 労務エキスパート
  • Employee Champion
    • 全従業員の意見の代理